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グランドハイアットソウル、マンダパ・リッツカールトン・リザーブバリ、マカオMGM GRAND、シャングリ・ラホテル東京、コンラッド東京など、国内外の一流ホテルに使用されているジャクソン(JAXSON)のバスタブ。そのジャクソンが日本企業だと聞いて、意外に思う方は少なくないのではないでしょうか。
今回はジャクソンの創業者であり、デザイナーでもある清水秀男会長にインタビュー。結論から言うと、清水会長の内側から絶え間なくあふれ出るエネルギーに圧倒された取材となりました。
「安易にデザインしてはいけない」
バスタブが”設備”として捉えられることが多いなか、ジャクソンだけは一線を画します。
洗練されたシルエット、内側からにじみ出る輝き、そして湯を張ったときのクリアな”ジャクソンブルー”。設備と呼ぶにはあまりにも美しく、存在感が際立つからです。
しかし、清水会長は「安易にデザインしてはいけない」と話します。
「奇抜なデザインで関心を惹くのは簡単ですが、飽きられてしまうし、入浴とはかけ離れたものになってしまう。これは自己満足で、お客様にとっては全然満足ではありません。バスタブを長く使っていただくため、デザインを偏らせないこと。これがベースです」
デザインとディテール、全てに意味があるバスタブを
デザインは奇をてらったものであってはならない。すべての形に何かしらの意味、つまりメッセージのようなものが込められている必要があると言うのです。
「肘をホールドするための曲線、肩までしっかりと浸かることができる深さ。『心地よさ』は人それぞれで、とてもデリケートなものです。ジャクソンは独自性と普遍性のバランスを重視し、デザインとディテールのすべてに意味があるバスタブを生み出してきたつもりです」(清水会長)
人がバスタブの形に体勢を合わせるのではなく、バスタブが身体に寄り添ってくるような有機的な形状。人それぞれの入浴スタイルに合わせて、バスタブを選ぶことができるよう、ジャクソンでは半身浴や家族での入浴、座禅のように足を組んで浸かるバスタブなど、あらゆる入浴シーンを想定した多彩なモデルをつくっています。
「世界のデザイナーと同じ、あるいはそれ以上のレベルにいること」
入り心地を第一に成型されたバスタブ。ジャクソンでは、それをドレスアップした置き型モデルも展開しています。
「新製品開発で一番大切なのは、”誰が興味を示すのか”ということ。たとえば2005年に発売した〈Barco/バルコ〉シリーズは、アウトドア家具と同じラタン調の素材を使用しています。当時、海外のインテリアブランドから高級なアウトドア家具が出てきたこと、そして日本でリビングと庭のつながりが大切にされてきたことに注目し、この素材を使うことにしました。
こちらは後にマンダパ・リッツカールトン・リザーブバリのオーナーの目にとまり、全室で採用いただくことになりました。彼らと同じ、あるいはそれ以上の情報・アイデアレベルにいることが、ブランドとして大切なんです」(清水会長)
バルコの特注モデルは、ラタンのカラーを某有名ブランドの家具と統一。モダンな高級家具で構成された住まいに、ごく自然に溶け込みます。ジャクソンはトップクラスの家具ブランドと親密なつながりを持ちながら、トータルな住空間を提案しているのです。
「”夢のある商品”を提案し続けなければ、ブランドは継続できない」
ジャクソンは商品構成も独創的です。バスタブを『Sクラス』『Eクラス』『Cクラス』の3つにセグメントし、ピラミッドのようなバランスを保っています。まるで欧米の高級車のように。
「Sクラスはブランドを代表するコンセプトカーのようなもの。E・Cクラスは幅広い人に使っていただくために大切なものです。Sクラスの開発は大変ですよ。普通のことをやっていてはいけないんですから。でもジャクソンは、Sクラスに力を入れています。
なぜならブランドは”夢のある製品”をつくり続けなければいけないからです。『いつかはあの車』『いつかはあのお風呂』って憧れられる存在じゃなければ、ブランドは継続できません」(清水会長)
実は、ジャクソンのEクラスやCクラスは、他社のものと比較しても決して高くはありません。実際に価格を知り、意外に思う方が多いとか。「それがブランドの力」と、清水会長は強調します。
「世界のデザイナーから選ばれていることが答え」
「ジャクソンは、今まで世界の設計事務所の大きなプロジェクトと関わりながら商品開発を行ってきました。プロジェクトがスタートする前に、まずジャクソンに声をかけていただく。彼らとコミュニケーションをとることでグローバルレベルのニーズを把握し、商品開発に繋げているんです。
トッププロジェクトに携わるデザイナーたちの情報はとても貴重なもの。そのときは奇抜でも、4~5年後は一般市場に広がっていきますから」(清水会長)
デザイナーたちは世界中のバスタブと比較したうえで、自身の作品の中にジャクソンを採用します。一流のシェフが最高の食材を求めるように、一流のデザイナーが最高のバスタブを求める。あまりに自然なことかもしれません。
「とてもうれしいですね。これが今までやってきたことの”答え”だと思っています」
清水会長の言葉は、一つひとつが力強く、確信に満ちています。ときに少し間を置いて、ゆっくりと答えを出すこともありました。まるで言葉に少しでもズレがあると、自身が歩んできた道の誠実さが損なわれてしまうとでもいうように。
後編のインタビューでは、ジャクソンの成り立ちについて。そして、清水会長の人柄ももう少し深く触れてみたいと思います。
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家具のように美しく、身体によりそう心地よいバスタブをつくり続けています。2022年、青山骨董通りから赤坂に移転し、JAXSON TOKYOとしてグランドオープン。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。