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ハイブランドの代名詞であるCassina(カッシーナ)。
普遍と革新を同時に感じさせるブランドとして、広く知られています。
「カッシーナが愛されるのは、ブランドの裏側にあるストーリー」と話すのは、カッシーナ・イクスシーの森康洋社長。
家具を”売る”のではなく、空間を”カスタマイズ”することに注力しているそうです。
長い歴史のなかで、デザイン性とクオリティの高い家具をつくってきた
ーーー”カッシーナ”という言葉を耳にすると、私はちょっと背筋が伸びるんです。ほとんどの方が”高級ブランド”としてのイメージを持っていると思うのですが。森社長は、カッシーナはどのようなブランドだと思いますか?
森社長
”独自のポジションにいるブランド”だと思います。僕が社長だからこう言ってるわけじゃなくて、一般論でね。カッシーナは1927年にイタリアで設立されて90年の歴史があるんだけど、もっとさかのぼると17世紀中頃の大聖堂の説教壇をつくっていた。そんな歴史のなかで、デザイン性とクオリティの高い家具を生産してきたんです。
ーーー客観的に見ても、希少な一流ブランドだと?
森社長
そう思います。
ーーーカッシーナで人気の家具と言えば、〈LCシリーズ〉や〈マラルンガ〉になると思うんですが、どのようなところが支持されているんだと思いますか?
森社長
どちらも完璧なソファだということ。
”デザイン”と”座り心地”が両立しています。でも「いいデザインって何?」に対する明確な答えはないんです。たとえば機能性が高くて「いいデザインね」と言われることもあるし、置くだけで部屋の空気が変わって「いいね」と言われることもあります。椅子だから、座り心地のよさは前提としてね。
ーーーお客さまの感性によって、「いいな」と思うデザインは違うんですね
森社長
そうです。だから〈LCシリーズ〉や〈マラルンガ〉が今でも受け入れられているのは、個人の感性を乗り越えてきたからじゃないかな。いつの時代も”人々の心に響いてきた”ってことですよね。
ーーーものづくりの点ではどうでしょう? カッシーナ・イクスシーはイタリア本国にライセンス生産を許され、一部の商品を群馬県の自社工場で生産されていますね。
森社長
一部を国内生産するのは、納期を短縮するためです。普通ヨーロッパにオーダーすると平均4ヶ月以上かかるんだけど、国内だとオーダーを受けて1ヶ月くらいで納品できる。お客さまからするとそのメリットは大きいですよね。
製品によってはフレームだけ輸入して在庫を持ち、クッションの製作を日本でやることも。そうすると輸送コストが下がり、販売価格も抑えられます。
なにより日本の職人のこだわり・マジメさ・繊細さは、イタリア人にひけをとりません。国内でカッシーナの精神を受け継いだものづくりをしています。
”家具”と言う領域を超えて、”空間づくり”をお手伝いする
ーーー昨年、青山本店をリニューアルされていますね。1階はライフスタイル雑貨、2階・3階は家具がゆったりとレイアウトされていて、フロアごとに雰囲気が違います。
森社長
大リニューアルしたのは、”家具”と言う領域を超えて、お客さまの”空間づくり”をお手伝いするためです。
カッシーナ・イクスシーはただの輸入家具屋さんじゃない。照明、テキスタイル、雑貨、絵画…インテリアの要素になるモノをすべてそろえて、トータルで空間をスタイリングする。この何年も社員みんなで試行錯誤した結果、今の店舗のスタイルになったんです。
家具を”売る”のではなく、空間を”カスタマイズ”する
ーーーそれにしても、どうして昔と同じやり方が通用しなくなってしまったのでしょうか。
森社長
今はモノと情報があふれ、グローバル化が進んでいます。ある意味、同質化が進んでるんですよ。みんなで同じサイトやインスタを見て、いいね!とやってるわけじゃないですか。その裏側では「自分はちょっと違うんだよ」という人が出てくる。同質化が起きてる裏側で、多様化が起きているんです。
ーーーなるほど。同質化と多様化が同時に…
森社長
だから今はモノを売るのがすごく難しい時代なんです。家具だけじゃなくて、音楽も雑誌もファッションもそう。どんな業種にも多様性が求められている。
「モノをたくさん並べればいい」という時代はもう終わった
ーーー世の中のニーズに応えた結果、今のスタイルに変わっていったんですか?
森社長
ニーズというか、”wants”ですよね。
顕在化してないけど、見た時に「こういうふうにしたかった!」と喜んでもらえるようなモノを差しだす。モノをたくさん並べればいい、という時代はもう終わったんですよ。カッシーナ・イクスシーの感性でセレクトしたアイテムを提案するほうが、今の時代に合ってるんです。
ーーーするとカッシーナ・イクスシーは、世の中に合わせて変わり続けるということですか?
森社長
永遠に変わり続けるしかない。そうしないとブランドは守れない。常に「変わらなきゃ」って言う意識はありますね。
ーーーカッシーナを選ぶ方は、インテリアへのこだわりが強い気がしています。クラフトのお施主さまも、カッシーナが好きな方は家具についてプロレベルの知識をお持ちだったり…
森社長
そうですね。スタイリングにこだわってる方が多いでしょうね。でも一方で「カッシーナの家具を置けば素敵な家になるかな?」と、なんとなく来店される方もいます。
”カッシーナ”というブランドに対する知識は、お客さまによってすごく差があると思うんです。詳しい方と、「よく知らないけど、有名だから見にきた」という方。
でもそんな方も使っているうちにファンになってくれる。リピーターになってくれるんですよ。カッシーナにリピーターが多いのは、1度使うとファンになっちゃうから。
ーーーそういう方は、カッシーナのどのような部分に惹かれているんでしょう?
お客さまが求めているのは、カッシーナの”ストーリー”
森社長
家具の魅力はもちろんだけど、その裏側にあるストーリーに共感する方が多いんですよね。
たとえばレストランに行っても、「この魚がどこで採れて、どれだけ貴重な魚で…」なんてシェフから説明されると、もっとおいしく感じるでしょう? 今みたいにモノが溢れている時代においては、結局”ストーリー性がある”ということが重要になってくるんです。
ーーーストーリー性が、お客さまの心をつかむんですね
森社長
そう。たとえば、ある方に「カッシーナの家具、どうしてそんなに高いの?」って言われたとする。でもそんなときは、「それはね、こういうつくり方をして…」「生地ひとつ選ぶにしても、こんな想いが詰まってる」と丁寧に説明していきます。すると「これだけ丁寧につくってたら、それくらいかかるよね」と納得していただける。これもある種のストーリーですよね。
お客さま一人ひとりに合ったストーリーを伝えていけたらいいな、と思います。
編集後記
Tシャツとスニーカーという格好で登場した森社長。たまたま隣に居あわせた人に話しかけるような、リラックスした口調で話かけてくださいました。からっとした5月の砂浜とか、のんびりとした明るいカフェとか、そんなところで。
しかし話はエキセントリックで独創性に満ち、次に何を言いだすかを想像できない。だからこそ「もっと話を聞きたい」と思う。それは今のカッシーナそのものです。遊びにいけば、何かわくわくするアイテムに出会えそうな予感がしてきます。
インタビュー後編では、森社長ご自身のストーリーをうかがってみます。ラグビー少年だった学生時代や、心地よい空間についてのお話も。
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1927年、イタリアで生まれたモダンファニチャーブランド。歴史は17世紀までさかのぼります。「伝統的」なブランドでありながら、「革新的」な家具を生み出しています。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。