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創業以来165年の間、オーナー経営が続いてきたサンゲツ。2014年、安田正介社長の就任により、新たなサンゲツの幕開けとなりました。
「みんなでサンゲツを変えたいと思った」と、当時を振り返る安田社長。やりがいを強く感じていたそうです。
サンゲツで行った改革のほか、プライベートのお話もお聞きしています。
※インタビュー前編はこちらから
「社長になって、あなたが作った中期経営計画を進めてほしい」
ーーー安田社長はもともと三菱商事にいらしたそうですね。サンゲツの社長に就任されたのは、どういうきっかけだったのでしょうか。
安田社長
2012年に39年間勤めた三菱商事を退職後、当時のサンゲツの日比賢昭社長からの依頼で社外取締役に就任しました。その後を継いでいた弟の日比祐市社長のもと、中期経営計画の作成をお手伝いさせていたくことになったんです。
そして「社長になって、あなたが作った中期経営計画を進めてほしい」と依頼されました。2年近くの間、社外取締役としてサンゲツに関わるうちにサンゲツに対して愛着が芽生えてきていましたから、お引き受けすることに。2014年のことです。
中期経営計画の作成時から「みんなでこれを実行したい」と思っていた
安田社長
ーーーサンゲツは、安田社長にどのような期待をされていたのでしょうか。
安田社長
日比祐市社長はいつも、「サンゲツは変わっていかなければならない」とおっしゃっていました。サンゲツは1849年に表具師としてスタートし、それからずっと家業として成長してきた会社。ただ、オーナー経営であることに限界を感じられていたのでしょう。「世代交代し、会社を組織的な体制に変えなければならない」ということになり、私に依頼がきたのです。
ーーー日比社長には「今のサンゲツを変えて欲しい」という想いがあったのですね。とはいえ、ここまで巨大化した企業を任されることにプレッシャーを感じませんでしたか?
安田社長
それはありませんでした。中期経営計画の作成中は、サンゲツの社員と一緒に議論を重ねてきましたから、「みんなでこれを実行したい」と思いましたね。「変えがいがある」と。
すべてのピースが埋まってはじめて「ああ、そういうことか」と
ーーーサンゲツではどのような改革をなさったのでしょうか?
安田社長
「事業」の本質は業種や会社でまったく違うので、どんな”プロ経営者”でも、すぐさま会社を変えられるわけではないんですね。実際に現場を知らなきゃいけない。事実を知らなきゃいけない。それは、聞いてもすぐには理解できるわけじゃないんです。
すべてのピースが埋まってはじめて「ああ、そういうことか」とわかることがあるんですよ。最初は「私は社長として知るべきことの2.3割しか知らない」とみんなに言っていました。でも5年半経った今、「やっと若干わかってきたかな」という部分もありますね。
ーーーわからないことは「わからない」とはっきりおっしゃるんですね。
安田社長
私はサンゲツに来る前から「頑固なやつだ」と有名だったんです。「これはこうだ」と一度決めたら、変えない。でも「頑固で強情」は最悪でしょう(笑)。頑固は仕方ないけれど、せめて謙虚でありたいなと。
人間ならプライドがあるゆえに、自分の意見に固執することはあると思うんですね。それでも「確かにそれは正しい」と思ったら認めないと、頑固さが変なことになっちゃいますからね。
私が誰よりも、会社の将来を考えなければいけない
ーーー具体的にどのようなところを変えられましたか
安田社長
営業体制・物流・商品開発・ブランディング・組織・人事制度といった事業基盤のすべてを見直しました。
でも一番注力したのは「社員の意識」ですね。サンゲツの社員は、ほんとうに真面目で熱心、諦めない。しかしそれは表裏一体なんです。反論する、反対する、というのが弱かった。
ぶつかって議論することによって、生まれるものがあるんです。私が社長に就任した時、社員に言ったのは「自我をもっと強めよう」ということ。一般的には自我が強いのは、悪い意味合いがあるかもしれない。でも「私はこう思う」と言うのを曲げない。しつこく主張するものがないとダメなんです。
ーーーサンゲツでの、安田社長の役割はなんだと思いますか?
安田社長
基本的には、事業を再構築すること。10年後20年後、自分たちの実力はどうなって、事業はどうなって、どういうことになりそうで、どうすべきか。実行自体は私一人でできませんが、私が誰よりも会社の将来を考えなければいけません。
海外でも「サンゲツ型の事業」を構築したい
ーーー2016年からスタートされた海外進出も、事業改革のひとつでしょうか?中国、北米、シンガポールに拠点がありますね。
安田社長
基本的には日本と同じで、海外でも「サンゲツ型の事業」を構築したいと思っています。「サンゲツ型の事業」とは、ブランド力・知名度・販売力を持つこと。
海外はフリースクロスが主流なので、日本とは違う商品が必要です。それに販売は、それぞれの地域の特性をよく知る現地の人が行ったほうがいいし、知名度も必要。そうなると、ブランド力・販売力・営業人員・商品といったものを一気に揃えていかなければいけないんです。
そこで、北米をカバーしているアメリカのKoroseal社、東南アジア・中国をカバーしているシンガポールのGoodrich社を買収しました。どちらも本国においては知名度が高く、両社を合わせると200人以上の営業人員がいます。よりグローバルに展開するために、今はネットワークを強化している段階です。
雛屏風、マイセン、ペルシャ絨毯...。大切なモノを自宅にディスプレイして
ーーーところで安田社長は、どのようなお住まいで暮らしていらっしゃいますか? 私たちはリノベーション会社なので、とても興味があります。
安田社長
…こちらが我が家です。
ーーークラシカルにまとめていらっしゃるんですね!とても素敵です。ソファの壁に飾ってあるものは屏風…ですか?
安田社長
ええ、お雛さまの後ろに立てる「雛屏風」です。「雛屏風を額縁に入れて飾りたい」と思ってずっと探していました。京都や金沢の骨董屋を巡って、やっと見つけたのがこちらです。
ーーーインテリアは、安田社長がコーディネートされたのでしょうか?
安田社長
妻も同じ好みなんですが、基本のコーディネートは私がやりました。海外赴任中にアメリカで購入した家具や、イラン訪問時に買ったペルシャ絨毯、ヨーロッパで買ったボタニカルアート、マイセンのミュージアムピースなど。もちろんクロスはサンゲツです。
ーーーご夫婦で集めていらした思い出の品をディスプレイされているんですね。とっても居心地がよさそうです。ご自宅ではどのように過ごされていますか?
安田社長
平日は名古屋で、週末は東京の自宅で過ごしています。土曜日の朝は1.5時間くらい散歩をし、母に会いに行って、帰って夕飯を食べて寝て、また翌日は母のところへ。休日はほとんどそれで終わってしまいます。孫に会いに行くこともありますね。
ーーーご自宅で過ごす時間はあまりないんですね。当然平日も…
安田社長
はい。平日は朝起きてスクワットを100回、腹筋を30回します。それから簡単な朝食を食べ、家を出るまでの1時間弱くらいゆっくりと新聞を読む。ほんの少しでも家で過ごすささやかな時間が、一番ほっとしますね。
ーーーご自宅のコーディネートを楽しんだり、朝の時間をゆっくり過ごしたり。何気ないひとときを、とても大切にされていらっしゃるんですね。
編集後記
「社員と食事に行くと、みんなはお店を見て『これはウチのクロスですね』なんて言うんですよ。僕なんかぜんぜんわからない」
スマートで、控えめで、そつがない。茶人のように冷静にビジネスを語る安田社長に対し、そのような第一印象を持ちました。でもお話していくうちに、その淡々とした口調の中にサンゲツやご家族への想いがあふれていることがわかります。
改革を推し進め、商社ではなく、オリジナル商品を生み出す「メーカー」としての立ち位置を強めてきたサンゲツ。海外事業や物流改革も留まることがありません。
「モダンクラシックな家にリフォームしたいんですが、今は時間がなくて…」と話す安田社長。まだまだ手綱をゆるめる様子はなさそうです。
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壁紙・床材・カーテンなどインテリア商品を多彩に取りそろえ、「トータルコーディネート」を可能に。 国内外の一流メーカーとコラボレーションしながら、オリジナル商品を開発しています。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。