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マンションのインターホンを押すと、すぐにKさんがドアを開けてくれた。それと同時にドアの隙間から甘ずっぱい香りがただよってくる。私たちの到着に合わせて焼いてくれたのは、レモンケーキ。濃厚なバターの風味の中にキリッとした柑橘の香りをまとい、夏の訪れを告げてくれるあの焼き菓子だ。
約3年前にCRAFTでリノベーションしたKさんご夫婦に、そんなキッチンライフをうかがってみた。
玄関を開けるとすぐにリビング。開放的な景色が広がっている
今回は2度目の訪問となるけれど、はじめてKさんの住まいを初めて訪れたときはちょっと戸惑ってしまった。というのは、玄関前にはドアも廊下もなく、すぐにLDKとなっているから。リノベーションしたときにあえて玄関ホールと廊下をなくし、リビングの広さを優先したという。
物件探し〜リノベーションは、ワンストップで〈CRAFT ESTATE〉に依頼した。天井高が高く、2面にルーフバルコニーの広がるこちらの物件に一目惚れして迷わず購入を決意。
周りに高い建物がないため視線が抜けて心地よく、夜はカーテンを開けたまま過ごすこともあるそう。
「主人と一緒に料理をしたかったから、リノベーションではキッチンの広さにこだわりました。それから『いかにもキッチン』にはしたくなかった。ダイニングに溶け込むようなキッチンが理想でした」(奥さま)
休日はレモンを一個まるごと使ってレモンケーキづくり
オーブンから出した生地がほどよく冷めてきたころ、仕上げにとりかかる。生地は小麦粉、バター、卵、アーモンドプードル、レモンピール、レモン汁。レモンまるごと一個をムダなく使う、奥さまお気に入りのレシピ。
湯煎したホワイトチョコにをレモン汁を加え、生地の上からかけて、砕いたピスタチオをトッピングしていく。
常温で冷まし、冷蔵庫に入れてホワイトチョコが固まれば完成だ。「普段はパパッと料理をして、休日はちょっと手の込んだ料理や焼き菓子をつくっています。キッチンの居心地がいいから、料理がもっと好きになりました」
キッチンの天板は大きく、背面にもカウンターがあって、たくさんの食材を広げても申し分のないサイズ。そんなこだわりのキッチンはkitchenhouseのオーダーメイド。コンロ、オーブン、食洗機はMieleのビルトイン。フラットですっきりとした印象だ。
「Mieleのオーブンにしてからは、オーブン料理が増えました。上段にお肉、下段に野菜を入れて一緒に料理ができるから、かなり時短になっています。あとは大きな食洗機も入れてよかった。以前のように洗い物を気にせず、好きなだけボールを使えるからストレスがありません。料理のハードルが下がりました」(奥さま)
食事は「みんなでおしゃべり」をたのしむもの。時間をかけて、ゆっくりと
日本で暮らして10年になるイギリス人のご主人さまも、料理好き。休みの日はお茶を淹れたり、マフィンを焼くこともあるそう。
「イギリスにいる義母が料理上手なんです。ロンドンから遠く離れた田舎なので、まわりにレストランがないということもあって、滞在中は手料理でもてなしてくれます。『イギリスは食事がイマイチ』なんてよく聞くけれど、義母は例外。イギリス料理に限らずどんなものでも作ってくれて、外食するよりもとってもおいしいです。料理を囲んで2~3時間かけてみんなでゆっくりお話ししながらいただくのが旅行のハイライトになっています。映画に出てくるみたいに広いキッチンで、みんなでお手伝いをしたり。そんな時間もたのしいです」(奥さま)
「一緒につくること」「一緒に食べること」を通じて生まれるコミュニケーションを大切にしたい。そんな想いは、ご主人さまのご実家から学んだこと。
イギリスのアンティークショップで買ったうつわ。欠けても大切に使いたい
「とっておきのうつわを見せてください」と頼むと、キッチン収納からこちらの3枚を出してくれた。ガラスに草花が繊細にエッチングされており、手に取ると、おどろくほど薄くて軽い。
「主人の実家は田舎でお店がほとんどないのに、アンティークショップが4、5軒もあるんです。きっとアンティークが身近なんですね。日本みたいにキレイに陳列されていなくて、ピラミッドみたいに山ほど積まれているところから探し出しました。残念ながら2枚が割れてしまって、こちらが残りの3枚。欠けたところもあるけれど、それが味になってるかな?なんて思いながら大事に使っています。主人の実家では、クリスマスのような大切な日はおばあさまから譲り受けたというシルバーのカトラリーを使ったりしていて。『古いものを大切にする』文化に共感しています」
北欧のうつわも好きで、数年前にはフィンランドにあるARABIAの工場を訪れたこともあるとか。
リビングのディスプレイシェルフには、ガラス製品が美しく飾られていた。
窓辺に置いたお気に入りのガラス製品やグリーンが自然光をたっぷりと受けて、まるで温室のような雰囲気になっている。
ご主人さまにとってもここはお気に入りのスペース。ソファに座って読書をしたり、映画を観たりして過ごすことが多いそう。
ギターを弾いていると、愛犬のチャッピーが静かに寄ってきた。
自然光に包まれた明るいリビングに、ギターのリズムが響き渡る。なんだか現実離れした空気を感じて、しばらく言葉が出てこなかった。
いろいろとお話をうかがっていると、冷蔵庫に入れていたレモンケーキが食べごろになったようで、ご主人さまが声をかけてくれた。おだやかな表情でカップに紅茶を注いでくれる。甘い香りが広がる。
Kさんがつくったレモンケーキが、ささやかだけど満たされた暮らしを象徴しているような気がして。ふと見た窓の外の風景がいっそうやさしく目に映る。
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【中古購入&リノベ】お客さまインタビューvol.9「ルーフバルコニーのある贅沢な空間」
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。