目次
スイスの山中にある人口1000人ほどの小さな村、Vals(ヴァルス)。ここに、世界中のセレブリティを魅了する〈Therme Vals(テルメ・ヴァルス)〉があります。
一生に一度でもアルプス山脈を越えて訪れる価値が十分にあるリゾートスパであり、ピーター・ズントーの名建築。今回は世界最高峰のスパリゾートをご紹介します。
世界のセレブリティや建築家を惹きつけるスパ
ヴァルスを訪れるのは、決して簡単なことではありません。スイスのチューリッヒから電車とバスを乗り継いで4時間ほど。それでも唯一無二のラグジュアリーステイを楽しむために、あるいはピーター・ズントーの名建築を見るために、世界中から人々がやってきます。なかにはヘリコプターやリムジンで乗り付けるVIPも。
「リゾートスパ」というとゴージャスな建物を想像しますが、〈テルメ・ヴァルス〉はむしろ古い寺院のような印象です。地元から掘り起こしたヴァルスストーン約4万枚を断層のように積み上げ、山の傾斜に埋め込まれるように建てられてたこの建築は、まるで自然のうちに構成された景色のようです。
完成から30年近く経過した今、外壁の石は欠けて変色しています。しかしそれが古さを感じさせることなく、むしろ奥行きのある表情と宗教的な美しさを湛えています。
一般のリゾート施設ならリノベーションや建て替えがなされても不思議ではない築年数ですが、こちらは経年によってさらに価値が深まっていく。欧米の教会と同様、時代を超越した建物なのです。
洞窟のようなプール、スチームサウナでは五感でくつろぐ
内部にも外壁と同じ石が使われており、スリットからから入り込むかすかな光によって、洞窟の奥深くにいるような感覚に。スロープの通路を下ると中央に大きなプールがあり、四方は壁で囲まれ、壁の向こうそれぞれが「温水」「冷水」「シャワー」「音を体感する」スペースです。
その壁には開口部があり、通り抜けるとまた別の浴槽へ。水温が異なる浴槽を移動し、体感温度の変化やシークエンスをたのしみながら、五感でくつろぎを感じることができます。
バルコニーからスイスの渓谷を眺めながら体を休めることも、このスパでは重要な作法です。窓際にはピーター・ズントー自身が設計した寝椅子が、牧歌的な景色を背景に美しく並んでいました。
こちらの椅子は今年、〈TIME & STYLE〉からピーター・ズントーの初の家具コレクションとして発売されました。
屋内にはスチームサウナも。内部は真っ暗で、ほとんど何も見えない状態。かすかな光を頼りに細長い形状のサウナをを進んでいきます。奥に行くほど温度が高くなるため、ご自身の好きな温度でととのうことができます。
屋外にも大きな温泉が。スイスの自然を感じながら入る最高の露天風呂です。基本的にどの浴槽も深いため、日本の温泉のように座ることができないのですが、こちらは浴槽内の階段に座ってゆっくりと浸かることができます。
ピーター・ズントーについての短い伝記
1943年、ピーター・ズントーはスイスのバーゼルという街で家具職人の息子として生まれました。父親のもとで4年ほど家具づくりを学び、1963年に渡米。NYの〈Pratt Institute〉でインダストリアルデザインを専攻しています。
1979年からはスイスに設立したアトリエを拠点に活躍。1983年、まだ無名だったピーター・ズントーが選ばれたのが、治癒効果のある温泉と、ミネラルウォーター(スイスを代表する水「Valser(ヴァルサー)」)をリゾートに活かすプロジェクト。後に最高傑作と言われる〈テルメ・ヴァルス〉です。
ピーター・ズントーはスパに過剰なサービスを付与するのではなく、むしろ無駄な装飾を極限にまでそぎ落とし、ヴァルスという土地が持つ「温泉」と「水」そのものを与えられる施設として設計しています。石・水・光が見事に調和するリゾートスパは、特殊な環境とピーター・ズントーの哲学から生み出された稀有なものであり、これから同様の施設が生まれることはほとんどないでしょう。
1996年に竣工したこの建築は、無名だったピーター・ズントーを一躍、世界的建築家の座に押し上げました。
ご自宅や別荘に、スパのようにリラックスできるバスルームを
〈テルメ・ヴァルス〉はスイスのチューリッヒから4時間もかかるため、日本から行くとかなり時間も労力もかかります。しかしそれだけ苦労しても、一生に一度は訪れる価値はあります。もし機会があれば、ぜひ訪れてみてください。
しかし旅行もままならない昨今、別荘やご自宅をリノベーションする方も増えてきました。美しい山や海を借景する大きな浴槽や、森林に囲まれたバレルサウナ、水風呂など。リノベーションでプライベートなリラクゼーションスポットを造ることは可能です。
まるで海外のリゾートを訪れたような空間へのリノベーションは、ぜひ〈CRAFT〉へお任せください。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。