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賃貸マンションやビルのリノベーションで、まずオーナーさんが気にするのが「住民が退居してくれるのか」ということ。
「立ち退きの方法はケースバイケース。住民のタイプに合わせて対処方法を変えます」と話すのは、東京中央総合法律事務所の代表弁護士・河本憲寿先生。これまで多数の立ち退きトラブルを解決してきました。
今回は、多くのオーナーさんが抱える『立ち退き問題』についてうかがいました。
立ち退き交渉の主なパターンは?弁護士・河本憲寿先生に聞いてみました
難易度★ 素直な住民のケース
まずは弁護士いらずのスムーズな立ち退き。オーナーさんが住民のドアをノックして
「あの~このマンション、老朽化が激しくてね。地震がきたら危ないから、そろそろリノベーションしようと思ってるの。申し訳ないんだけど、8月までということでいいかしら…」
善良な住民であれば、ちょっと戸惑うものの「残念ですけど、それなら仕方ないですね」と退居してくれるでしょう。普通の人なら、大家さんが困っている姿をわざわざ見たいとは思いません。更新時期が近ければ、なおさら出ていきやすくなります。
「それなら当人同士で解決できます。弁護士は必要ありませんね」と河本先生。
難易度★★ 理由があって引っ越せないケース
ちょっと難易度が上がるのが、「引っ越したいけど引っ越せない」というケース。
高齢で新しくマンション・アパートを借りることができなかったり、引越し資金がなかったり。その場合はお金で解決することになります。「半年分の家賃を無料にするので、その間にお願いできますか」「引越費用は全額負担します」など、相手が納得する条件を提案しましょう。
「負担額の相場はありません。あくまでも住民が納得する価格です」と河本先生。
難易度★★★ 立ち退くのが店舗のケース
わりと大変なのが、ビルに店舗やオフィスが入っているケース。
「店舗やオフィスの立ち退きには、結構な費用負担が必要になってきます。移転経費、営業補償、宣伝広告費などがあり、賃料の100~200倍になってしまうことも。再利用契約(「ビルがリニューアルしたら、また戻ってきていただけますよ」というもの)はわりと効果的ですね。移転費用など小額の負担だけで済むこともある。とにかくケースバイケースです」(河本先生)
河本先生曰く、「大切なのは相手の立場に立って考えること」。
お店側としても、これまでその場所で築いてきた顧客がいるはずです。「急に出て行ってください」と言われて、簡単に動けるわけがありません。
オーナーとしては、できるだけ少ない費用負担で、気持ちよく退居してもらえるような落としどころを見つけることが大切なのだそうです。
なかなか出て退居してくれない人の特徴は?
「ひとつは経済的に余裕がない方です。引越費用も新居の敷金・礼金も用意できず、身動きが取れない。この場合は具体的な金額を提示することで応じてくれる可能性があります。
より深刻なのが、お金目的で出て行かない人。”ねばるほどたくさんお金がもらえる”と思っているので、簡単には応じてくれません。きちんと家賃を払っていた人であれば、強制的に退居させることはできない。根気づよく強く説得していくしかないでしょう」(河本先生)
河本先生のお話を聞いていて思ったのが
オーナーさんは非常に弱い立場にいるということ。
頑として退居しない人がいたら、あきらめるしかないのでしょうか?
「もし相手が賃料未払いだったら、裁判ではオーナーさんにかなり有利になります」
そのとき、弁護士は何をしてくれるの?
もし相手に賃料未払いがあれば、立ち退きを求める正当な理由になる場合もあるそうです。東京中央総合法律事務所では
〈1〉解除通知・示談交渉(『出ていってください』の通知を出し、弁護士が話に行く)
↓
〈2〉訴訟提起(裁判で判決を出す)
↓
〈3〉強制執行(強制的に出て行ってもらう)
といったステップで進めています。
「たいていの方は〈1〉の解除通知・交渉で示談に応じてくれるんですが、ダメだった場合は〈2〉の訴訟提起に進みます。いわゆる裁判です。相手が賃料未払いなら、ほぼ勝てる可能性が高いと言えます。しかし勝訴しても、出て行かない人もいます。
そうなると〈3〉の強制執行です。これはお互い不幸になるパターン。オーナーさんは執行補助者に払う費用、倉庫代、運搬費用などで100万円以上の負担となる場合があるし、出て行く人もお金を1円ももらえない。弁護士としては、何としてでも避けたいところです」
弁護士の費用負担はどのくらい?
弁護士さんに相談すると、当然弁護士費用がかかります。弁護士事務所によってさまざまですが、ここでは東京中央総合法律事務所の費用を例にあげてみました。
〈解除通知・示談交渉〉10万円
〈訴訟提起〉30万円
〈強制執行〉10万円
〈占有移転禁止の仮処分申し立て〉20万円
〈報酬〉退居してもらえた場合20万円(家賃回収できればその2割)
※交通費、郵送代は別途
できるだけ〈解除通知・示談交渉〉の段階で退居してもらえるように、入居者の方には「今なら家賃数ヶ月分を負担しますよ」というメリット利益の説明と、「最終的には強制退居になりますよ」という不利益の説明通告を行います。つまり、退去することの利益と退去しないことの不利益を、メリハリをつけてわかりやすく伝えてあげることが大切なのだそうです。
弁護士さんの法的な説明、告知の効果は大きそうです。
スムーズに退居してもらうためにオーナーさんが日頃からできることは?
スムーズに退居してもらうため、オーナーさんができることはあるのでしょうか? 河本先生は3つの方法を教えてくれました。
迷惑行為をメモしておく
日頃から、気になる行動があったらメモをしておくこと。裁判では、賃貸未払い以外の迷惑行為も退居を求める理由になる場合があります。
「たとえば、騒音や破損など。”注意しても改善しない”ことがポイントになるので、そういうことがあればメモしておきましょう。契約者じゃない人に又貸ししたり民泊に使われていた場合も、『占有移転禁止の仮処分申し立て』といって、法的に退居を求める理由になる場合があります」(河本先生)
『ペット禁止なのに飼っている』『ゴミ出しのルールを守らない』といった小さなことが、裁判で有利になることもあるそうです。
定期借家契約に切り替えておく
リノベーションの時期が決まっていたら、定期借家契約に切り替えておくのも効果的。定期借家契約とは「契約期間が終わったら再契約しませんよ」というもの。1年未満での設定もできるそうです。
しかし入居者がそれに納得して契約書にサインしないといけないため、簡単に応じる人は少ないそうです。わりとハードルは高そうです…
「でも家賃を下げたり、更新料を免除するといった条件を出せば、応じてもらえることもあります。こちらも交渉次第です」
相手のことを知る
立ち退き交渉は、人と人の関わり合い。相手をよく知ることが、スムーズな立ち退き交渉につながるそうです。
「相手を知ることはとても重要です。お金に困っているのか、頼れる家族がいないのか、忙しいのか…。相手のことがわかれば、こちらがどういった出方をすべきかがかわります。相手が求めている条件で提案できれば、立ち退き交渉は成功する可能性が高いです」
〈まとめ〉立ち退き交渉も含めて、一棟リフォームはCRAFTへご相談ください
立ち退き交渉の進め方についてご紹介しました。
立ち退きに関して言えば、オーナーさんはとても弱い立場にいます。だからこそ、法律の知識と経験が必要です。オーナー自身で交渉する方法もありますが、不安な方は、リノベーション会社に相談してもよいでしょう。法に訴える力はありませんが、オーナーさんに変わって第三者の立場から交渉してくれるケースも。
それでもどうにもならず、法的な手段に訴える場合は、立ち退き案件の経験が豊富な弁護士さんに相談しましょう。専門家らしいスマートな方法で解決してくれるはずです。
東京中央総合法律事務所・河本憲寿
CRAFTのパートナー法律事務所。代表の河本先生は、これまで多数の立ち退き問題を解決してきたスペシャリスト。多くの経験と実績から、ケースに応じた方法で解決してくれます。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。