物件データ
お子さまたちの独立による家族構成の変化、住まいの劣化をきっかけに「リフォームを考えるようになった」という奥さま。それから実際にリフォームするまで、3年の期間がありました。その間に少しずつ、アンティークの建具や箪笥を集めてきたそうです。デザイナーは、奥さまの独自のセンスをしっかりと理解し、お好みの間取りやデザインをご提案。奥さまのご希望を叶えつつも、間取りはモダンで暮らしやすく、デザインもあまり民芸調になりすぎないように配慮したことがポイントです。たとえば、アンティークの建具は伝統的な納まりや設置方法にこだわっていますが、フローリングに西洋的なウォールナットを使ったり、全体のプロポーションをすっきりとさせたり。部分的にモダンな要素を取り入れることで、誰が訪れてもくつろげる空間に仕上げています。
暮らしに合った間取りと、
アンティークの建具や箪笥がフィットするデザイン
いくつもご提案したプランのなかかから、ご希望の建具をメインに使い、キッチンを大きく移動するプランを採用。全てのドアは奥さまお気に入りのアンティークの引き戸に変え、全室の床材をウォールナットで統一し、開放したまま伸びやかに過ごせるように。見通しのよい開放的な住まいに生まれ変わっています。また、お持ちの建具を”活かす”ため、伝統的な方法にこだわりました。たとえば、建具の敷居滑りには竹を使用し、建具の枠も昔ながらの納まりに。一方で断熱材の充填やサッシ交換、インナーサッシの設置により、お悩みだった寒さをしっかりと解消しています。「退職後は家で過ごす時間が増えたと」言うSさん。お好きな空間で、お孫さんとたのしい時間を過ごせるようになったそうです。
LDK
玄関の大きな収納を撤去したことで、玄関ホールに開放感が生まれ、見通しもアップ。他社からは「キッチンは動かせない」という声があったものの、排水の工夫により、キッチンの床を上げずに動かすことができました。さらにキッチン~洗面室~廊下と回遊できる間取りによって、家事効率もアップ。各スペースのドアを全て引き戸に替え、いつもは開放したまま伸びやかに過ごせるようにしました。断熱材の充填、サッシ交換、インナーサッシ設置により、寒さ対策も万全です。
ダイニング
奥さまが「一番のお気に入り」と言う万本格子の建具は、最も目立つLDKの入り口に使用。敷居には昔ながらの竹のレールを埋め込み、開閉するたびにリアルな時代性を感じられるように。建具の枠には建具と同じ檜(ひのき)を、経年したように塗装しました。上部の欄間は、間口に合わせて幅を伸ばしています。欄間の趣がそのまま映えるように、伝統的な納まりにこだわって仕上げました。万本格子の間には半透明のポリカーポネートを入れ、冷暖房効果を高めています。
寝室
リビング・ダイニングの隣にはご夫婦のベッドルームをレイアウト。開口を広げ、4枚の引き込み障子に変更しています。普段はフルオープンにし、開放的に過ごせるようになりました。建具と窓は、奥さまのイメージを実現するため綿密な打合せを繰り返しながら、オリジナルでデザイン。格子のレイアウトや幅にこだわり、すっきりとした民芸調の雰囲気に仕上げました。窓はネジ鍵をきつく閉めれば、気密性がアップ。インナーサッシとしての効果もしっかり備えています。
個室
お嬢さまのご希望は、大正ロマン風。そこでフローリングはサペリ、腰壁にはピンカドを使用するなど、つややかで赤みのある木を使い、和洋折衷の華やかさを演出しました。窓も、大正時代を意識したオリジナルのデザインでオーダー。大正~昭和初期に流行した結霜ガラスにより、ノスタルジックな雰囲気を一層高めています。奥さまから譲り受けたというドレッサーがフラットに納まるよう工夫。壁の一部を凹ませつつ、反対側の納戸スペースをしっかりと確保しています。また腰壁は低めに設定して重心を下げるなど、全体的にすっきりと見せました。
洗面室
キッチン~洗面~廊下へ通り抜けできる便利な動線。引き戸を開放したまま過ごすことが多いため、床材はあえてLDKや廊下と同じウォールナットに。水まわりに無垢材を使うことはめずらしいですが、小さなお子さまがいないこともあり、全体の統一感を重視しました。床の連続性が伸びやかな印象をつくります。造作の洗面カウンターは下部をオープンにし、広がりを感じられるように。一方、タオル掛けはキッチンの既製品の取っ手を使用。太めの無骨なバーをセレクトし、空間のバランスを図りました。
玄関
ドアを開けた瞬間、ぱっと目に飛び込んでくる組子細工の間仕切り。斜めから見ると、ほどよく洗面室を目隠し、優美なイメージを与えます。福井の職人さんによる手づくりで、住まいのテイストに合わせた図柄と色でオーダーしました。スライド式で取り外しもできます。正面の凹んだスペースには、岩谷堂箪笥を配置。下がり天井と奥に仕込んだ照明が、和室の床の間のような趣です。奥さまが生けた花で、おもてなしの気持ちが伝わるように。正面は、左の引き戸枠をあえて設けず、玄関から整然と見えるように配慮しました。
ずっと集めてきた古家具たち
「ずっと前から古伊万里など骨董が好きだった」という奥さま。リフォームを考えはじめてから3年。古道具屋を巡りながら、少しずつ万本格子の建具や水屋箪笥を集めてきたそうです。今回リフォームするにあたり、イギリスのアンティークのダイニングテーブルとイスをご購入。イスの張り生地は、お母さまの古い着物をリメイクしたもの。個性的な家具や小物がフィットする空間をつくりつつ、シルエットや素材でモダンさをプラスし、民芸調に偏りすぎないようにしました。
大黒柱の中に配管を
玄関の収納を撤去し、スペースを拡大。ゆとりのある玄関ホールからは、リビングの先のバルコニーまで見通せるようになりました。これまで収納内にあった配管は、収納撤去によって露出。そこで吸音材を巻いて突板を張り、大黒柱のように見せることにしました。インパクトのあるローズウッドの板目で存在感を強調し、コーナーを面取りして民芸調の無骨さを表現。アンティークのキャビネットを置けば、ちょっとしたギャラリーのようなスペースです。
古い建具を
馴染ませる工夫
LDK・洗面室・納戸の出入り口は、すべて古い建具を使用しています。洗面室の建具は、間口に合わせて幅を伸ばし、LDKの建具と同じ色に塗装しました。建具の枠は現場で塗装し、経年変化したような風合いに。華奢な万本格子の隙間からは、光や人影がはかなげに見えて情緒的な雰囲気がただよいます。竹の敷居滑りといった伝統的な素材を使い、昔ながらの方法で施工したため、開閉するときの手応えもリアルです。伝統にこだわりながら、時代の空気感をできるだけ再現しました。