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建築や家屋のデザインについていろいろ調べていると、必ずと言っていいほど登場する「ル・コルビュジエ」。
レンズの分厚い丸メガネをかけ建築家然とした出で立ちのイメージはあるかもしれませんが、コルビュジエとはどんな人物で、何がそんなにすごいのかは意外と知られていないかもしれません。
この記事ではコルビュジエの提唱した「近代建築の五原則」を通して、建築家ル・コルビュジエについてご紹介します。
実は生粋のスイス人!ル・コルビュジエの生い立ちとは?
1887年、ル・コルビュジエは時計職人の家に生まれました。
本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリといい、彼の最も有名な名前「ル・コルビュジエ(Le Corbusier)」は43歳ごろに雑誌編集者として使っていたペンネームです。「フランス人建築家」として知られていますが、フランス国籍を取得したのも43歳頃のことで、それまでは生粋のスイス人でした。
10代の頃のコルビュジエは家業を継ぐべく、美術学校で時計職人の技術を学んでいました。しかし視力の悪化により、精巧な時計を作るのが難しくなっていったことと、美術学校の教師から勧められたことで、建築家を志すようになります。
その後は建築家への道を邁進し、19歳の時に早くも「ファレ邸」で建築家デビュー。しばらくはフランスで活躍したベルギー人建築家オーギュスト・ペレに師事し、25歳ごろに建築家として独立したようです。
コルビュジエについての「とにかくすごい建築家」というイメージは、万人に共通のものかもしれません。いったいコルビュジエの何がそんなにすごいのでしょうか。
ル・コルビュジエが生み出した、モダニズム建築の基礎「近代建築の五原則」
コルビュジエはとにかく鉄筋コンクリート(RC)造の建造物と結び付けられることの多い建築家です。しかし、鉄筋コンクリートで建築物を作ったのはコルビュジエが初めてではありません。
セメント自体は古代ローマ時代から使われていましたし、「圧縮力にはめっぽう強いが引張り力に弱い」というコンクリートの弱点を「内部に鉄筋を埋め込む」という方法で補強する鉄筋コンクリートの手法は1850年代からすでに建築に活用され始めていました。
またコルビュジエの師とも言えるオーギュスト・ペレも、1907年ごろには「ランシーの教会堂」や「フランクリン街のアパート」などで鉄筋コンクリート造の建築を完成させています。
とはいえ、コルビュジエ以前には組積造(石やレンガを積み上げて建物を作る方法)という古い建築手法の代替としてコンクリートを使用していたにすぎず、デザインも旧態然としたものでした。
当時はまだ鉄筋コンクリートの利点を最大限に活かせてはいなかったのです。
「近代建築の五原則」と「ドミノシステム」
いち早く鉄筋コンクリート造の可能性に鋭く着目していたコルビュジエは、重苦しく、設計上の制約が多く、窓は小さくて室内が暗いという組積造建築の弱点を覆すべく、のちに「ドミノシステム」として知られるようになる建築工法の基礎を発案します。
これは、鉄筋コンクリートの利点をフルに生かし、スラブ・柱・階段さえ鉄筋コンクリートで堅牢に作っていれば建築物の他の要素は自由に設計できる、という考え方でした。
さらに、ドミノシステムは「安価で量産可能な住宅を作りたい」というコルビュジエの願いともマッチ。ドミノシステムは、彼の建築哲学を誰にでもわかる形で具現化しています。
このドミノシステムを通し
●ピロティ(1階部分の壁をなくし、吹き放ちにすること)
●自由な平面
●自由な立面(ファサード)
●水平横長の窓
●屋上庭園
という、現代では「近代建築の五原則」として知られる新時代の建築のセオリーが誕生したのです。
近代建築の五原則で、建築は解放された
「壁で建物を支える」という従来型の建築の制約から解放されたドミノシステムを採用すれば、柱の配置さえ適切に行えば、壁は構造耐力には関わりがないため、設計の自由度が高まり、立面(ファサード)の自由にもつながります。
ドミノシステムで作る建築物は壁に負荷がかからないため、窓はどれだけ大きくしても、横長にしても、または壁を全面ガラス張りにしても問題ありません。1階部分は思い切って壁をなくしてしまえば、自由に歩行したり車を停めたりすることが可能になります。
屋根も従来型の三角屋根にする必要はなくなり、平面的な屋根(日本で言えば「陸屋根」)には庭園を作って楽しむこともできるでしょう。
これが、コルビュジエが生み出した「近代建築の五原則」であり、この原則がモダニズム建築の礎(いしずえ)となりました。
「石けん箱のようだ」と揶揄されることも
従来の建築とは一線を画していたコルビュジエ建築は、当時の人々には目新しすぎたのか「石けん箱のようだ」と揶揄されることもあったようですが、コルビュジエが世界に名を馳せていくにつれて、世界中で彼の建築とそこに見られる「近代建築の五原則」にならった建物が広がっていくようになります。
建築のこのような構造は、現在の日本の街並みでも普通に見られるものですが、この近代建築の「あたりまえ」には創始者がおり、コルビュジエがその人物なのです。
コルビュジエの世界遺産に見られる近代建築の五原則
2016年に、「ル・コルビュジエの建築作品群―近代建築への顕著な貢献―」というちょっと長い正式名称で、世界中にある無数のコルビュジエ建築のうち、7カ国の17物件が世界遺産に登録されました。
その作品群の中でも、近代建築の五原則が顕著な形で反映されている代表的な建築物には下記のようなものがあります。
〈コルビュジエ作品1〉サヴォア邸
1931年、パリ郊外に竣工。コルビュジエの提唱する近代建築の五原則すべてが反映されている建物として有名です。
とりわけデザイン上の核となるピロティが目を引きますが、窓に注目。2階部分の端から端まで配置されている水平横長の窓が、壁には構造上の荷重がかかっていないことを証明しています。
〈コルビュジエ作品2〉ユニテ・ダビタシオン
ユニテ・ダビタシオンとはコルビュジエが設計した集合住宅の総称で、最も有名なものは「マルセイユのユニテ・ダビタシオン」でしょう。
8階建て337戸の大型建造物でありながら、ピロティで地面から持ち上げられたような構造になっています。
ユニテ・ダビタシオンを観察すると、ピロティが単なるデザイン上のアイデアではなく、ピロティによって解放された空間を人々が行き交い、風が通り抜け、車の駐車スペースにも利用できるよう配慮されて造られたものであることがわかります。
〈コルビュジエ作品3〉国立西洋美術館
日本人にとっては最も身近なコルビュジエ建築である東京上野の国立西洋美術館は、近代建築の五原則のうち「水平横長の窓」以外が実装されている建築物です。
展示品を最も美しく見せる形で自然光が差し込むよう配置された天窓(紫外線は美術品を劣化させる恐れがあるため、現在は照明器具が設置されている)や、ゆっくりと視線を変えながら美術品を鑑賞できるよう設置されたスロープなど、絵画や彫刻も作成していたコルビュジエの芸術家としての強みが全面に生かされた建造物です。
まとめ
コルビュジエの建築とそこに見られる彼の理念を観察すると、「機能性」を極めてゆけば、デザインも自ずと洗練されてゆくという、ものづくりの不変の原則を垣間見ることができるでしょう。
しかし、コルビュジエが追求した「機能性」は、決して機械的で無味乾燥したものではなく、そこに住む人々の暮らしを中心にしたものでした。
リノベーションの計画を立てるときにもコルビュジエの建築を調べてみれば、自分のプランに取り入れられる彼の建築哲学について何か新しい発見があるかもしれません。
<著者>CRAFT 編集部
一級建築士・二級建築士・インテリアコーディネーター・一級建築施工管理技士・二級建築施工管理技士・宅地建物取引士が在籍。さまざまな知識を持つプロフェッショナル集団が、リノベーションや物件購入についてわかりやすく解説します。