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『バブル建築だ』と揶揄されることもあるほど、周囲の景観を無視したエキセントリックな建物。
1975~1995年。バブル景気も後押しし、日本各地に奇抜でコストのかかる建物が建てられました。これがいわゆる〈ポストモダン建築〉です。
今回は、今でも東京で見ることができるポストモダン建築をご紹介します。
ポストモダン建築とは?
ポストモダン建築が世界に広がった背景には、モダニズム建築へのアンチテーゼがあります。
〈モダニズム建築って何ですか?わかりやすく解説します!〉でご紹介しましたが、モダニズム建築は鉄とガラス、コンクリートなどの工業製品を使った合理的な建築物のこと。ゴシックやバロック様式の装飾性を「野暮ったい」と否定したことからはじまりました。
これに対して今度は「モダニズムなんて、味気ない」という声が。モダニズム建築で否定されていた装飾性や象徴性が、今度は強く支持されるようになったのです。こうしてポストモダニズムの扉が開かれました。
さまざまな様式を折衷したラディカルな建物に、世の中の注目が集まります。
M2ビル/1991
等々力方面から環八通りを走り、砧公園を通り抜けるとカオスな建物が見えてきます。
イオニア式の柱、ロシア・アヴァンギャルド建築のイワン・レオニドフを思わせるアンテナ、高速道路の遮音板などが不規則なバランスで混在し、建物を構成。一目見てまずは言葉を失う…というのが正直なところでしょうか。
当初は自動車メーカーマツダのデザインラボとして建てられましたが、2002年にマツダが冠婚葬祭サービス会社へ売却。現在も斎場として使われているそうです。
設計:隈研吾
所在地:東京都世田谷区砧2-4-27
東京メモリードホール
内装はリノベーションされていますが、外観は建築当時のオリジナルデザインが保たれているため、見に行く価値は十分にあり。
東京都庁舎/1990
パリのノートルダム寺院のような双塔で構成されたファサードに、無数の窓が格子状に連なります。設計した丹下建三によると「コンピューターチップをイメージした」とか。丹下建三の後期の代表作とされています。
「戦後最大のコンペ」と言われた建築設計競技では、当時として高さ日本一の高層ビルを提案した丹下案が勝利。落選した案も大半が高層ビルでしたが、たった1つ、丹下の門下生でありポストモダン建築を代表する磯崎新からは「低層都庁案」が出ていました。こちらが採用されていたとしたら、西新宿の街並は変わっていたのかもしれませんね。
ちなみにこの6年後、丹下建三はお台場のシンボルとなるFCGビル(フジテレビ本社ビル)を完成させました。
設計:丹下建三
所在:東京都新宿区西新宿2-8-1
東京都庁舎
幾何学模様のような特徴的なデザインで、西新宿のランドマークとなっているのが東京都庁舎。東京の観光名所として客足が絶えません。
江戸東京博物館/1993
地上3階分の大きなピロティには、圧倒されるものがあります。高床式の倉をイメージしたという4本の脚で本体を支える巨大な建物。しかし高く評価されたわけではなく、当時は「江戸の景観を損なっている」と各方面から批判を受けたそうです。
しかし、展示室を上部に上げたのは”水害から展示物を守るため”。寒々しさを感じるほどの大空間は”江戸時代から火事や震災の多かったこのエリアで、避難場所としての機能を持たせるため”だという話も。
伊藤豊雄に「恐らくこのような狂気を秘めた建築家が今後現れることはないだろう」と言わしめた、菊竹清訓。その胸の内を推し量りつつ、じっくりと鑑賞するのもよいのではないでしょうか。
設計:菊竹清訓
所在:東京都墨田区横網1-4-1
江戸東京博物館
江戸の暮らしをテーマにした企画展を開催。高さは江戸城天守閣と同じ62mで、7階の展望ロビーからは現在の江戸の街並を眺めることができます。
東京工業大学博物館/1987
完成時は、子どもたちが指差して「ガンダムだ!」と叫んだというエピソードがあります。東京工業大学創立百周年として誕生したのが、こちらの近未来的な建物。
シンメトリーの庇や、本体から距離を置いて設けられた黒いダムウェーター(荷物専用昇降機)、空に向かって突き出す半円のシリンダー。どの角度から見ても発見と驚きがあり、やはりこちらもポストモダン建築の代表と言えるでしょう。
設計したのは篠原一男。〈白の家〉ではで極めてミニマルな住まいを設計した篠原氏が、20年後にSF的なデザインを手掛けたことも興味深いですね。
設計:篠原一男
所在地:東京都目黒区大岡山2-12-1
東京工業大学博物館
開館時間であればいつでも見学可能。各フロアに展示室があり、地球史、化学、建築、篠原一男に関する資料が展示されています。
晴海旅客船ターミナル/1991
ポストモダン建築を代表する建築家といえば、竹山実。新宿歌舞伎町の『一番館』『二番館』や『SHIBUYA109』も有名ですが、やはり見学するなら晴海旅客船ターミナルがおすすめです。
晴海旅客船ターミナルは、豪華客船が接岸する玄関として1991年に完成しました。真っ青な空にカゴのような白い四角錐がそびえ、内側には赤いモニュメントがのぞきます。夜になるとあたたかい光がこぼれて燈台のような趣も。残念ながら大型客船は入港できず、ターミナルとしての機能を多少失いましたが、今でも東京の夜景スポットとしても親しまれています。
晴海エリアは現在、2020年の東京オリンピックに向けて選手村が建設されています。オリンピック後は民間に売却され、タワーマンションエリアとなる予定。先日、晴海旅客船ターミナルの廃止が決定しました。
設計:竹山実
所在:東京都中央区晴海5-7-1
晴海客船ターミナル
青空の下のターミナルは爽やかな眺め。夜はライトアップされ、都会的な景色をたのしめます。撮影スポットとしても人気の高い場所です。
まとめ
モダニズムの巨匠ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more(少ないほど豊かである)」に対し、「Less is bore(より少ないことは退屈だ)」と提唱したロバート・ヴェンチューリ。建築界がポストモダンへと移行する一石を投じました。
ポストモダン建築は、古典的な装飾や、未来的な素材といった複数のファクターで1つの作品を構築する手法が目立ちます。いずれも「価値観をひっくり返してやろう」という思いでつくられており、見る人を圧倒するエネルギーがあります。
これらを眺めていると、「ポストモダン建築」は一種の流行ではなく、建築の可能性を追求することの重要性を教えてくれる大切な遺産なのだと思いました。
今回ご紹介したのは、ポストモダン建築のなかでも都内で見られる建物が中心です。「ポストモダン建築って何だろう」と思った方は、まずはお近くの建物を訪れてみてはいかがでしょう。
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※バックナンバー
モダニズム建築って何ですか?わかやすく解説します!
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。