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お父さまから相続したというビルは、築40年。老朽化が進み、テナントの空室状態が続き、どうするか思いあぐねていたそうです。『建て替え』と『リノベーション』を比較した結果、ビルを活かし、コストを抑えられるリノベーションを選択することに。
都心のビルをテナント付き住宅にリノベーションし、理想のライフスタイルを実現されたWさんご夫婦に、お話をうかがいました。
「父が遺したビルを活かしたい」。建て替えではなくリノベーションに
C:こちらのオフィスビルはご実家から受け継がれたそうですね。今回「リノベーションして暮らそう」と思ったきっかけを教えていただけますか?
ご主人さま:築40年で老朽化も進み、1階以外のテナントがしばらく空いている状態でした。2~3年前からずっと、「建て替えるか、リノベーションするか」を考えていましたね。しかしいざ調べてみると、建て替えには莫大な費用がかかることが発覚。このビルはRC造で地下もあるから、解体するだけで1億円近くの費用がかるんです。それを知って、リノベーションに気持ちが傾いていきました。
奥さま:このビルは古くなって、いろいろ問題が出てきていたのは事実ですが…。南向きで陽当たりが抜群にいいし、オフィス街だけど、ちょうど目の前に高い建物がないから景色が抜けているんです。駅も近く、大通りからちょっと入っているので都心とは思えないくらい静か。これから足腰が弱ったとしても、ここなら快適に暮せそうだと思いました。
父が頑丈に建ててくれたビルなので、私も『リノベーションして活かす』という主人の考えに大賛成でした。
細かなリクエストに応えてくれるクラフトに決めた
C:”壊す”よりも”活かす”方向になったわけですね。ビルのリノベーションを専門でやっている会社さんもありますが、その中でクラフトを選んでくださったのはなぜですか?
ご主人さま:初めに大手ハウスメーカーやビル専門の会社を含め、5社に見積もりをとりました。でもクラフトさんの提案が一番緻密で、よく考えられていた。
このビルは登記上は事務所ビルなので、コンバージョン(用途変更)という特殊なケースになるんです。大手はコンバージョンを多く手掛けているようでいて、実際はたくさんの制約がありました。しかしクラフトさんは消防などの問題をクリアし、構造的な裏をとりながら私たちの要望のほとんどに応えてくれました。「クラフトさんなら間違いないだろう」と思い、依頼することに決めたんです。
最上階はパーティーサロンのような雰囲気に
C:先ほど奥さまがおっしゃったとおり、最上階は陽当たりもよく、眺めもいいですね。こちらのLDKは、ご友人が集まるパーティーサロン的な使い方も想定されているとか。
奥さま:はい。これまでは外食するとき、ゆっくり過ごせる個室を利用していたんです。でも人数や時間の制限があるし、予約も必要ですよね。ずっと『時間を気にせずに仲間とゆっくり過ごせる空間が欲しい』と思っていました。そこで、最上階はパーティーサロンのような使い方をできればいいな、と。
ご主人さま:ここで映画を観たり、スポーツを観戦ができるように、100インチの大きなスクリーンとプロジェクターを入れています。音響にもこだわりました。映画なんかは臨場感があってすごい迫力です。もう映画館に行かなくてもいいくらいですよ。
C:眺めもよくて、映画もたのしめる。贅沢なスペースですね。先ほどリビングとひと続きのバルコニーに出てみましたが、空が大きく見えてとても気持ちがよかったです。デッキテーブルも置いていらっしゃるということは…。
ご主人さま:はい、晴れた日はセカンドリビングとしても使うつもりです。バルコニーだけで10坪くらいあるし、上のルーフバルコニーも使えます。そうなると50人くらいは招待できそうですね。照明にもこだわったので、遠くから見るとバルコニーが浮いているように見えてキレイなんですよ。
お気に入りの”一枚板のダイニングテーブル”を主役に
C:シンプルモダンな空間ですが、デザインはどのように決めていきましたか?
ご主人さま:こちらのブビンガの一枚板のテーブルを、部屋のメインにしたいと思っていました。とても気に入っていて、後から同じ一枚板のベンチも注文したくらいです。クラフトのデザイナーさんには、テーブルが主役となるように空間的な広さやデザイン・色合いを決めていただきました。
提案していただいた木の壁も気に入っています。音響効果があるし、対面の壁の色が違うのでメリハリがあっておもしろい。これから経年変化し、少しずつ趣が増してくることもたのしみの1つです。
下層階をテナントに貸し、自分たちは上層階で暮らす
C:実際に暮らしてみて、”ビルに住む”という選択は正しかったと思いますか?
奥さま:もちろんです。一般的に『借り手がつきづらい』とされている上層階に私たちが暮らし、下層階はテナントさんに入っていただいたり、ビジネスに利用したり。賃貸ビルの特性をうまく活かしながら暮らせていると思います。
都心だから駅も近いし、病院もたくさんあるし、歳をとって暮らす環境としてはベストです。何より『友人と過ごす時間を大切にしたい』という私たちのライフスタイルにとても合っていると思います。
ご主人さま:今、都心に古いビルが増えています。しかしせっかく親から相続しても、「どうしていいかわからない」という人が多い。ビルはテナントが入ればいいけれど、入らないビルはとことん入らないんですよ。私たちもそうでした。ですからビルを住居兼店舗にリノベーションするのは、ビルにとっても、持ち主にとってもよい方法だと思います。既存のビルを壊すのではなく、活かすほうがいい。
それにリノベーションは、自分の好きな間取りにできることもメリットです。うちはWICの周りをぐるりと本棚で囲み、デスクスペースを設け、廊下スペースを活用できるようにしていただきました。こんなユニークなプランができたのも、リノベーションだからだったと思います。
C:ちなみに2~4Fは、どのように活用するおつもりですか?
今回は大規模なリノベーションにより、外観から1階のエントランス、エレベーターホールまで新築のようになりました。エントランスにはオートロックや宅配ボックス、セキュリティカメラもあり、ビルとしてのグレードが上がっています。非常に借り手がつきやすい状況になったのではないでしょうか。
これからテナントさんに入ってもらうか、あるいはシェアハウス、シェアオフィス、レンタルスペースにするか。これだけの立地とスペースですし、アイデア次第でどのようなビジネスも成り立ちます。いろいろなことが浮かんできますね。
リノベーションは気力が必要。今のうちにやってよかった
C:リノベーションのタイミングとしては、いかがでしたか
奥さま:リノベーションは気力がいるから、体力があるうちに実行できてよかったです。物の処分もクラフトさんにお願いしましたが、それでも大変でした。
それに今はまだ必要ないけれど、将来のことを考えてトイレや和室の小上がりの入り口に手すりをつけることができました。実際に手すりが必要な歳になってやろうとすると、もっと大変ですからね。
ご主人さま:自分が60歳を迎えた時、『これからどんな舞台にどんな舞台装置を置いて、どんな人を招き入れながら生きて行くか』を考えました。歳をとると周囲とのコミュニケーションが少なくなってしまう人が多いけれど、私たちはそれが嫌だったんです。これからも、人とどんどん繋がっていきたい。そのためには、こうしたパーティーサロンのような空間が必要です。
細かな要望が多々ありましたが、一つひとつ誠実に応えてくれたクラフトさんにはとても感謝しています。クラフトさんにお願いして本当によかったと思っていますよ。
インタビュー後記
お父さまからビルを相続したWさんご夫婦。老朽化が進み、テナントの空室率が目立つようになったとき、『建て替えるか、リノベーションするか』という選択に迫られました。いろいろ考えた結果、
・建て替えよりもコストが安い
・思い出のあるビルを残せる
という2つの大きなメリットから、リノベーションを選択。しかし「ただキレイになればいい」というわけでわなく、『これからの暮らしが、豊かになるように』と、プランとデザインにこだわってリノベーションしています。最上階には住まい、下層階にはテナントを。ビルのポテンシャルを最大限に活かしたリノベーションにより、理想のライフスタイルを手に入れました。
「これからどう生きて行くか」を考えた時、このビルのコンセプトにたどり着いたというご主人さま。理想の生き方からリノベーションを考えてみるのも、おもしろいのではないでしょうか。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。