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沈み込んだようなグレーの中に冴え渡る、あざやかなオレンジ。黒皮塗装の壁は鈍く妖艶に光ります。
築47年のマンションを購入し、クラフトでリノベーションした I さん。はじめから新築は視野に入れず「日本にないようなマンションにしたい」と考えていたそうです。
BGMのサックスが伸びやかに響く広いリビングで、お話をうかがいました。
フルリノベーションできる家を探して、築47年のマンションを購入
CRAFT(以下C):かなりヴィンテージなマンションですね。ワンフロア1世帯という点でも珍しい物件です。どちらが気に入って購入されたのですか?
ご主人さま:私たちには「フルリノベーションをしたい」という希望が一番にありました。それから「100㎡以上ほしい」と。
けれど、都内でなかなか見つからない。あったとしてもすごく高い。こちらの物件は駅近で100㎡ほどあり、眺めもよくて。中はボロボロだったけれど、それなりの値段で購入できることがわかり、見学したその日に即決しました。
(写真/リノベーション前)
C:見学したその日に。ずいぶんと早いご決断ですね…。
ご主人さま:実は家を売買するのは4回目なので、経験上「物件は迷っていると取られる」とわかっていたんです。この物件も、私たちの前に購入を迷っている方がいたようです。
C:『ボロボロだった』とおっしゃっていましたが、「リノベーションしたらキレイになる」という確信はありましたか?
ご主人さま:はい。過去に部分リノベーションをやったことがあったので、なんとなくイメージはできていました。むしろ古い物件をお手頃に買って、十分なコストをかけて好みの住まいにしたいと。
ニュージーランドで暮らしていたとき、まわりには築100年のモダンな家ばかりで「古くても時間と手をかければキレイになる」というのはわかっていましたから。
日本にないような、自由な発想のマンションにしたい
C:まずお邪魔したときに「ここは日本なの?!」と驚きました。玄関の框はないし、リビングはものすごく広くて、オレンジのアクセントカラーが印象的で。かなり思いきったプランを採用されましたね。
ご主人さま:海外で暮らしていた影響が大きいかもしれません。日本で「2LDK」というと、だいたい間取りは同じですよね。でも海外はそれぞれ間取りもデザインも違うんです。「日本にないような自由な発想のマンションにしたい」と思っていました。
私たちが漠然としたイメージをデザイナーさんに伝えて「こうしたらどう?」「こっちもいいよね」なんて、妻と私とみんなで形にしていきました。
はじめは「黒い壁に、赤いアクセントを入れたい」と思っていたけれど、「それなら、メタリックな質感が出る黒皮の塗装がいいのでは?腕のいい塗装屋さんがありますよ」とデザイナーさんが教えてくれました。
それで塗装屋さんに行って、職人さんが塗装する様子を見ながら「こんなことができるんだ!」と。そういう経緯があって、このようなオレンジ~黒皮のグラデーションの壁になりました。デザイナーさんのアドバイスがあって、少しずつ私たちのイメージが広がっていったんです。
私たちが一方的に要望を伝えたわけでも、デザイナーさんから押し付けられたわけでもなく。一緒に空間をつくっていけて、すごくおもしろかった。
デザイナーズホテルや海外の友人宅からインスピレーションを
C:壁や床の見切りはR(曲線)になっていますね。空間が有機的につながっているような、やわらかな印象を受けました。
ご主人さま:直線的な間取りがあまり好きじゃなくて…。丸みのあるフォルムをイメージしていることをお伝えし、Rを取り入れてもらいました。
C:リビングには、3人分のデスクがユニークにレイアウトされていますね。
ご主人さま:はい。大きなデスクは在宅で仕事をしている妻のこだわりです。昔は普通のサイズだったけれど、彼女のデスクがどんどん大きくなって…。その集大成がこちら(笑)。とにかく「広いスペースで仕事がしたい!」とずっと言っていました。家族みんなが自分のデスクに座って、それぞれ仕事や宿題をやってることもあります。
アイランドキッチンも、妻にこだわりがあったとかで。忙しい朝はカウンターキッチンで子どもにさっとご飯を食べさせて、さっと食器を洗う…という効率的なキッチンに憧れていたようです。
C:今回のリノベーションで、いろんな憧れを実現されたのですね。それにしても、ワークスペースもキッチンも個性的!どのようなところからインスピレーションを?
ご主人さま:デザイナーズホテルには、広い空間にワーキングスペースがありますよね。なんとなくそうしたイメージがあったのかもしれません。キッチンは、妻が海外の友人の家を見て「アイランドにしたい!」と。これまで訪れた場所が私たちの記憶に蓄積して、インスピレーションになっているんだと思います。
チャレンジングなアイデアをたくさんもらって、思いっきり遊べた
C:これまでのご経験や、デザイナーとのやりとりからリノベーションのイメージが膨らんでいったのですね。ちなみに、クラフトにお声がけくださったのはどうしてですか?
ご主人さま:HPのデザイン事例を見て「かっこいいな」と。それから相談会で新宿モデルルームを見たときに「これは私たちのやりたいことだな」と思いました。
クラフトさんの他、1社に見積りをとりました。でもクラフトさんのご提案がすごくよかった。
とにかく、最初からデザイナーさんのアイデアがものすごく多かったんです。たとえばバスルームを通って寝室にアクセスしたり、玄関をなくすことで、スペースを最大限に活用するといったプラン。
チャレンジングなアイデアをたくさんもらえたから、思いっきり遊べました。
外出していても、「はやく帰ってゆっくりしたいな」と思う
C:ご自宅では、どのように過ごされていますか?
ご主人さま:家にいるときは、ほとんどの時間をリビングで過ごしています。「広いスペースで、大きなボリュームで音楽が聴きたい」と思って天井にスピーカーを入れました。ここでジャズやクラシックを聴いていることが多いですね。
娘はリビング続きの広いスペースでチェロの練習をしています。とにかく家にいる満足度が高い。外に出かけていても「早く家でゆっくりしたいな」と思うことが増えました。
インタビュー後記
中古物件を買うところからスタートした I さんは、「たくさん物件を見て、自分の価値判断を持つことが大切」と教えてくださいました。共用廊下の塗装の剥がれや、外壁のクラックなど、リノベーションで変えられない部分をしっかり見ること。大規模修繕の履歴や管理費の用途を調べること。
また、ご自身も過去に何度かよい物件を買い逃した経験から「大切なのは、いい物件だと思ったらすぐに決断すること」と強調します。よい物件に出会うことが、中古を買ってリノベーションの第一歩です。
最後に「もう一度フルリノベーションをしたいですか?」と質問すると、少し考えて「大変だったけど、もう一度やってもいいかな」と静かに笑いました。
※こちらの詳しいプランは、デザインリフォーム・リノベーション事例 #19134をご覧ください。
<著者>中野 瀬里乃
大学卒業後、出版社・フリーライターを経て、2013年リノベーション会社CRAFTへ入社。自社HPやオウンドメディアにてリノベーション・不動産・建築・インテリア関連の事例紹介やコラムを多数執筆。